性的少数者を尊重し、性自認に基づいて生きる権利を広げた司法判断だ。国は法整備を急ぎ、多様性のある社会への理解が進むよう取り組まねばならない。

 性同一性障害と診断され、性器の外観を変える手術をしていない当事者が、戸籍上の性別を男性から女性に変更するよう求めた差し戻し家事審判で、広島高裁は性別変更を認める決定を出した。

 性同一性障害特例法の要件のうち「変更後の性器部分に似た外観を持つ」とする「外観要件」の規定を、「違憲の疑いがあるといわざるを得ない」と判断した。

 昨年10月の最高裁大法廷では、裁判官15人のうち3人が違憲判断を出すべきだとした。最高裁は、高裁に再審理を求めていた。

 性別を変更する場合に、事実上手術を強いてきた「生殖能力要件」を違憲とした最高裁決定に続き、性的少数者に寄り添った判断が下されたといえる。

 特例法が性別変更に際して規定する五つの要件のうち、外観要件と生殖能力要件の二つは「手術要件」と呼ばれる。体にメスを入れるか性別変更を断念するかの二者択一を迫るもので、人権の観点から根強い批判があった。

 高裁決定の特徴は、医療の進歩を踏まえ、ホルモン療法で外性器の形状が変化することは医学的に確認されているとしたことだ。

 外観要件を満たす条件を、手術の有無にかかわらず「社会生活で他者の目に触れた場合に、外性器に特段の疑問を感じないような状態であれば足りる」とし、柔軟な解釈を示した。

 同療法は女性から男性への変更に比べ、男性から女性への場合は変化が不十分なケースが多い。

 今回、手術なしで性別変更が認められるのは申立人だけだが、同じように悩み苦しむ人たちの道を開くものとしたい。

 最高裁の決定以降、与野党は特例法の改正論議を始めた。

 自民党は先月、報告書をまとめ、生殖能力要件と外観要件を削除し、心と体の性が一致しない「性別不合」が一定期間続くことなどを新たな要件とした。

 立憲民主党は先の通常国会に、両要件を削除する改正案を提出した。秋の臨時国会では、各党の積極的な議論を望みたい。

 男性から性別変更した女性が、自身の凍結精子を使って女性パートナーとの間にもうけた子どもを認知できるかを争った訴訟の上告審で、女性を「父」として認めた決定もあった。

 最高裁は「血縁上の父の法的性別にかかわらず、婚外子は認知を求めることができる」とした。

 性別変更を認められた人は右肩上がりに増加し、昨年末時点で約1万3千人に上る。

 トランスジェンダーの人たちの権利を侵害しない社会へ、私たちの意識を高めていく必要がある。