
香山リカ
一度、心に刷り込まれた感情の中で、最も消えにくいものは何であろうか。統計的な裏付けがあるわけではないが、精神科の診察室で感じるそれは「恐怖」である。たとえば乗っていたエレベーターが停電などで止まってしまい恐怖を味わった人が、その後、長期にわたってエレベーターに乗れなくなる、という事例はめずらしくない。
12月14日に北九州市のファストフード店で起きたふたりの中学生殺傷事件は、全国の子どもやその家族に計り知れない恐怖をもたらしたのではないだろうか。学校が終わってから塾に通い、その帰りに今回のような店で軽食を口にしてから帰宅する、という中高生はどこにでもいるはずだ。そのときに突然、襲われても自分...
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