
“厄介物”のワニエソを、どのように活用していくか。漁業者や観光関係者らの議論は白熱した=2024年11月、村上市桑川の天ぴ屋
温暖化をはじめ、さまざまな要因が絡み、海や川の環境が変わっています。魚や海藻といった恵みにも響き、食文化に関わってきています。海や川が発するシグナルには、いろいろな警告やメッセージがあるはず。長期企画「碧(あお)のシグナル」では、それを読み解きながら、次代に恵みをどうつなぐのか探ります。初回シリーズ「変わる新潟の魚影」では、漁師らの思いに迫ります。(8回続きの6)
秋も深まった2024年11月中旬の午後、新潟県村上市山北地区の景勝地「笹川流れ」。桑川漁港の一角にある施設「天ぴ屋」に、漁師や観光関係者ら8人が集まっていた。机の上には、琥珀(こはく)色の液体が入ったカップがいくつも並ぶ。「ちょっと生臭い」「これはいける」。口に含んでは感想が次々と出る。終わったころ、自慢の夕日はとうに海に沈んでいた。
味わっていたのは、「ワニエソ」の焼き干しのだしだ。にょろっとした細長い形の魚で、成長した春先には、大きいもので60センチを超える。口元には鋭い歯がのぞく。水温が高い西日本が主な漁場とされ、山口県などでは高級かまぼこの原料として重宝される。
「昔からぽつぽつ揚がったと聞くが、5年ほど前から邪魔になるほど量が増えた。この秋も網の3分の2がエソの時があった」と、だし作りに取り組む桑川の漁師、本間浩二さん(49)は語る。
新潟県沖の網に多くかかるようになったが、県や国の統計には魚種としての項目自体がない。西日本に直接出荷する県内の漁師は一部にいるものの、「金にならない」と取れても海に戻すケースが多いためだ。いわゆる「未利用魚」。本間さんもそうしてきた。

山北地区での話の輪の中心に、威勢の良い女性がいた。天ぴ屋を運営する笹川流れ観光汽船の社長、渡辺...
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