「南の魚」と思われていたものが、もっと北で取れるようになった-。こんなふうに、全国各地で取れる魚の顔ぶれに変化が出ている。海水温の上昇や資源量の増減をはじめ、海の環境が変わったことが背景にある。大型企画「碧のシグナル」の第1シリーズ「変わる新潟の魚影」に合わせ、親しみのある魚の漁獲量がどんな形で推移してきたのか、専門家の見方を交えて探る。

 漁獲量などを通じ、浮き彫りになってきた魚影の移り変わり。海洋環境と魚の変化について詳しい、国の水産資源研究所の底魚(そこうお)資源部副部長(新潟庁舎勤務)、木所英昭さん(54)は、周期的に起こる魚種交代や海水温上昇をはじめ、「さまざまな要因が重なっている」と語る。ただ急激な温暖化で「これまでの考え方では説明がつかない状況も出ている」と指摘する。

 木所さんは気候変動と水産資源の変動について、(1)長期的な資源変動(2)温暖化による漁期や漁場の変化(3)地域的な好不漁-の三つのポイントで考えている。

 「南の魚がなぜ新潟で取れるのか」といった変化は、(2)の温暖化に当てはまる例が多い。新潟県に関わる魚種で言えば暖水性のサワラだ。日本海に来ているサワラは東シナ海が産卵場所で、「資源全体で増えている影響もあるが、分布が広がったのは海水温の上昇」と語る。

「日本海がスルメイカの海から、ブリやサワラ、クロマグロの海に変わった」と話す木所英昭さん=新潟市中央区の水産資源研究所新潟庁舎

 逆に資源量が豊富であっても、地域的な好不漁が生まれることはある。最近は両津湾の定置網になかなか入ってこない寒ブリに触れ、「海水温が高いと、佐渡の沖合いを南下するので、入網に不利な状況になる」と説明する。

※農林水産省「海面漁業生産統計調査」を基に作成

 急激な温暖化の進行からか、これまでの自然界の営みを覆すような動きも出ている。代表例に挙げるのは、国内の漁獲量が最盛期の3%程度にまで落ち込むスルメイカだ。「(本来なら)資源が増えている時期のはずなのだが」といぶかしがる。

 日本近海の海水温のトレンドは長期的には右肩上がり。だが、10年単位でみると寒冷期と温暖期を交互に繰り返している。この変動と歩調を合わせて、資源量が増減することを「レジームシフト」という。スルメイカは温暖な時期に増える特性だったが、「2010年ごろから温暖期に入り始めたのに、さらに減った」という。

※農林水産省「海面漁業生産統計調査」を基に作成

 要因については今後の研究課題とした上で、「近年の寒冷期の水温は、かつての温暖期並み」であることが背景にあると指摘。資源量の増減と海水温の関係も、「これまでのように対応していない可能性がある」とする。

 さらに資源自体が減ったことに加え...

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