
津波避難時の様子を振り返る佐内昭一さん。奥は津波が押し寄せたなおえつ海水浴場=上越市虫生岩戸
2024年1月1日の能登半島地震2024年1月1日午後4時10分ごろに発生した石川県能登地方を震源とする地震。逆断層型で、マグニチュード(M)7.6と推定される。石川県輪島市と志賀町で震度7を記録し、北海道から九州にかけて揺れを観測した。気象庁は大津波警報を発表し、沿岸部に津波が襲来した。火災が相次ぎ、輪島市では市街地が広範囲で延焼した。発生から、1年が過ぎた。新潟県内でも大きな揺れに襲われ、液状化現象が起き、津波が川をさかのぼった。初売り客でにぎわう商業施設や、正月で親戚が集まる沿岸部の集落などでは、その時、どう対応したのか。それぞれの現場で体験した「あの日」の記憶を振り返り、教訓を探る。
2024年元日。上越市のなおえつ海水浴場に近い虫生(むしゅう)岩戸(いわと)集落は穏やかな正月を迎えていた。
能登半島地震が起きたのは午後4時10分。上越市は最大震度5強を観測した。前町内会長、佐内昭一さん(75)は激しい揺れに家の外へ出た。「津波が来るかもしれない」。近所に大声で避難を呼びかけながら指定緊急避難場所の裏山の中腹へ急いだ。
海沿いに東西へ延びる虫生岩戸の背後には山が迫る。集落には当時27世帯76人が暮らしており、約6割が75歳以上の住民がいる世帯だ。
集落東側、郷津地区の世帯の多くは津波浸水想定区域内にある。虫生岩戸は最短13分で浸水深が最大6・6メートルの津波が到達するとされ、郷津の住民が避難場所へ行くには幅約2メートルのつづら折りの道を2、3分ほど上らなければならない。
▽「原則徒歩」に疑問符
市が「原則徒歩」としている津波避難のルールに従い歩いて向かう世帯もあれば、高齢者を車に乗せて高台へ向かう...
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