
北陸新幹線開業に伴い、JRから経営分離された並行在来線を引き継いだえちごトキめき鉄道(新潟県上越市)が始動してから3月で10年となった。この間、観光誘客に注力するが、沿線人口の減少や新型コロナウイルス禍で利用客は伸び悩み、厳しい経営を強いられている。地域の鉄路は試練が続く。(2回続きの1)
「今の状況のまま経営を続けるのは難しい。何とかご理解賜りたい」。2月中旬、トキ鉄の平井隆志社長は記者会見で10月から値上げを実施すると表明し、頭を下げた。
値上げは、2020年春以来2回目。これにより、直江津-高田間は開業当初の200円から330円、直江津-糸魚川間は670円から1070円に。10年間でおおむね6割程度引き上げられることになる。
平井社長は「利用者に負担をかけて申し訳ないが、何とか持ち直したい思いだ」と苦境を訴える。その背景には、開業以来ほぼ毎年続いてきた赤字決算がある。15年度以降の純損失は、19年度に組み入れた固定資産の減損損失を差し引いても平均で年5・4億円超に上る。
▽赤字覚悟で“出発”…ウイルス禍が経営に追い打ち
トキ鉄は開業当初から厳しい経営が予想されていた。新幹線開業に伴い、並行在来線を引き継いだ三セク鉄道の中で、人口が集中する県庁所在地を通らない事業者は全国でも珍しい。開業した15年の国勢調査で沿線人口は上越、糸魚川、妙高の3市を合わせても約27万4千人で、約81万人だった新潟市の3分の1規模だ。
実際、トキ鉄は開業1年前に国から鉄道事業の許可状が交付された際、開業から10年の損益は年間平均で2億円のマイナスになるとの計画書を示していた。赤字覚悟でのスタートだった。
開業後は想定外の事態にも見舞われた。中でも大きかったのは新型コロナウイルス禍だ。感染が急拡大した20年度には、外出自粛やイベント中止などで旅客収入が前年度から約3割減となった。観光の目玉のリゾート列車「雪月花」に至ってはほぼ半減した。
その後も影響は続き、現在に至ってもウイルス禍前の水準には至っていない。平井社長は「この間にリモート勤務など生活様式が大きく変わった。そうなるとお客さんを完全に呼び戻すのは難しい」と分析する。
JRから引き継いだ施設の維持管理も想定以上にコストを要した。トキ鉄の路線は全国の貨物輸送ネットワークの一端も担っており、きめ細かなメンテナンスが不可欠だが、沿線の架線や橋りょうなどは老朽化が著しい。

特に直江津(上越市)-市振(糸魚川市)を結ぶ「日本海ひすいライン」は、本州日本海側の東西をつなぐ重要路線の一つ。海沿いのため塩害を受けやすい。22年まで常務を務めた石黒孝良さん(77)は「どの施設も予想以上に傷むのが早かった。部品の交換や修繕をこまめにしなければならず経費がかさんだ」と振り返る。
▽打開策の観光急行、人気とは裏腹に…
トキ鉄も手をこまねいていたわけではない。トキ鉄ならではの...