
養老孟司さん(撮影・小倉元司)
【相談】
人の悩みのほとんどは人間関係に因を発し、中でも親子関係の悩みを何十年も引きずっている人が多いと、あるお坊様から伺ったことがあります。
たしかに私自身、もはや古希を超えた今に至っても父・阿川弘之の亡霊から逃れ切っていない気がします。父親を失った娘は、たとえ父親に対して深い愛情を抱いていなくとも、亡くなってしばらくたつとその喪失感ゆえに、突然、涙が望陀(ぼうだ)のごとく流れるものだと教えてくれた友人がいます。が、父が他界してすでに10年。いまだにその手の涙を流したことがありません。それどころか、ときどき夢に現れる父は相変わらず憤怒の顔で迫ってきて、私は焦るというパターンばかりです。
もっ...
残り1523文字(全文:1823文字)