年が明けた。誰もが争いや憎しみのない穏やかな2024年を望んでいるだろう。
8年前、世界中で共感を集めた言葉がある。「ぼくは君たちを憎まないことにした」。テロで妻を失ったパリの男性がSNSに投稿した手紙の一文だ。
悲しみに沈む中、テロリスト宛てに「憎悪で怒りに応じることは、君たちと同じ無知に陥ることになる」と書き付けた。投稿は3日間で20万人以上が共有し、新聞一面に掲載された。
今この瞬間も、怒りが報復を生む憎悪の連鎖が止まらない。パレスチナ自治区ガザやウクライナの戦火はやまず、紛争状態にあるアジア、アフリカの国でも犠牲は増すばかりだ。
報復を繰り返す先には破滅しかない。一人で憎しみを乗り越えることは難しい。国や民族、宗教を超えて一人一人が支え合い、連帯することで負の連鎖を断ち切らねばならない。
◆多様な価値認め合う
そのためには、社会に多様な価値観があることを互いに認め、守り育てる必要がある。
LGBTなど性的少数者への理解増進法が昨年成立し、施行された。出生時の性別と性自認が異なるトランスジェンダーや同性カップルらへの理解を深め、人権を尊重する法律だ。
県は24年度、性的少数者のカップルを自治体独自に認めるパートナーシップ制度の導入を目指す。県民意識調査で全体の3分の2が「やや」を含め「必要」とした制度だ。権利への認識は広がってきたといえる。
公営住宅の同居など民間も含めた各種サービスで、性的少数者が不利益を被らない制度を設けてもらいたい。未導入の市町村への広がりも期待したい。
芸能界を揺るがした旧ジャニーズ事務所の性加害問題は、パワハラの要素だけでなく「男らしさ」の規範にとらわれ、男性被害者が声を上げにくい状況も指摘された。
昨年末に有罪判決が確定した陸上自衛隊の強制わいせつ事件は、被害者の元女性自衛官が実名で告発するまで表立った対応がとられなかった。
性被害が及ぼす心の傷への理解が進んでいない面がある。自分をその立場に置き換え、想像する力を持ちたい。
22年度に30日以上休んだ不登校の小中学生は全国で過去最高となり、その要因の一つ、いじめの認知件数も過去最多だった。県内でも不登校は7年連続で過去最多を更新している。
新潟日報社と上越教育大は10日まで、当事者らの状況を把握するため、匿名方式の共同アンケートを実施している。
子どもたちが安心して過ごせる居場所が求められる。専用フォーム(右のQRコード)に寄せてもらった当事者や家族らの悩みや訴えを基に、必要な支援を考えることに役立てたい。
◆世界遺産を起爆剤に
世界遺産登録を目指している「佐渡島(さど)の金山」を巡っては今年、国連教育科学文化機関(ユネスコ)で最終審査される。四半世紀にわたる登録への道のりは大詰めを迎えた。
韓国は佐渡金山で朝鮮半島出身者の強制労働があったと主張し、登録に反発してきただけに予断は許さない。
一方、明るい兆しもある。韓国の駐日大使は先月、本社のインタビューに、戦時中の朝鮮人労働者について詳細な説明があれば、韓国政府は反対しないとの見通しを示した。
同様の課題があった長崎市の端島(通称・軍艦島)を含む文化遺産の取り組みを参考に、登録を実現してもらいたい。
登録されれば日本有数の観光資源として、多数のインバウンド(訪日客)の来県が見込まれる。新潟空港や上越、北陸両新幹線という交通インフラが移動の利便性を高めてくれる。
新潟空港に拠点を置く格安航空会社トキエアは今月31日、丘珠線(札幌市)の運航を始めるとしている。年内に仙台、佐渡線就航を目指し、将来は中部国際(愛知県)や神戸を想定する。
地方を結ぶネットワークの重要性に注目したい。世界的な半導体産業が熊本県や北海道などに進出し、地域経済の活性化に大きく寄与している。
国の推計では、50年の県人口は今より3割減の152万人になる。地方が衰退する連鎖に歯止めをかけねばならない。人材流出を防ぐため、働く場をつくって活力を取り戻そう。













