地震を検知して開く鍵入りのボックス。電力は不要だが、地震が設定値に届かないと開かない=村上市の村上小学校
地震を検知して開く鍵入りのボックス。電力は不要だが、地震が設定値に届かないと開かない=村上市の村上小学校

 新潟県を含めた日本海側沿岸に津波警報が発令された能登半島地震では、住民が逃げ込む先として指定された学校など「緊急避難場所」の解錠の在り方を巡り、課題が浮かび上がった。新潟市では、鍵の管理者より先に住民が到着し、ガラスを破って入るケースがあった。日本海側の津波は到達が早い上、鍵を持った人が避難場所にたどり着けない事態も想定される。専門家は「複数の解錠手段を準備するなどの対応が必要だ」と指摘する。

 新潟市では全県で最多の約1万4千人が避難した。市によると、今回の地震で住民がガラスや鍵などを壊して開けた避難場所や避難所は計11カ所。約300人が避難した万代高では体育館入り口のサッシを壊して入った。

 ガラスなどを壊して入るのは、市のマニュアルでも明記され「今回はやむを得ない事情で適切な対応」と関智雄防災課長は話す。ただ「安全管理の面などから推奨はしづらい」と複雑な表情を浮かべる。

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 新潟市では施設管理者、近隣の市職員、自治会関係者の3者がそれぞれ鍵を管理する。約600人が避難した中央区の紫竹山小では、地震発生から十数分後に自治会関係者が鍵を開け、スムーズに受け入れた。

 ただ、被災状況によっては鍵の管理者が必ずしも開けられる保証はない。鍵を預かる自治会関係者からは「自分が被災したら開けられない」「安全な場所にいても、危険を冒して鍵を届けないといけないのか」など不安の声も上がる。

 市は「たとえ鍵を持っていても自分の身が第一。無理強いはしない」とする。一方で、上所小では自治会関係者が自己判断で解錠しなかったといい、「改めて手順の共通認識を図りたい」とする。

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 こうした到着や解錠の遅れを解消するため、解錠を自動化した自治体もある。

 村上市は2011年の東日本大震災を契機に、震度5弱以上で施設に設置してある鍵が入ったボックスが自動で開く設備を導入した。避難者が鍵を取り出して入ることができ、市が直接管理する27の小中学校(閉校を含む)に設置されている。

 ただ今回の地震では、村上市は震度4だったため、ボックスが開かなかった。結果として避難者の列ができ、課題も残ったという。大滝豊危機管理室長は「震度設定の変更について業者に聞くなど対応を検討したい」と話す。

 津波防災が専門の常葉大(静岡市)社会環境学部の阿部郁男教授(55)は、「ハザードマップで津波の到達時間を考慮し、『何分待っても鍵が届かない場合は窓を壊す』といった基準をつくり、地域全体に周知することが必要ではないか」と提案する。

 自動解錠も通信や停電の影響を受けるタイプもある。「一つの手段では、それがだめになったら開けられない。複数の手段を用意することが大切。今回の地震を契機に地域や行政で議論を進めるべきだ」と呼びかけた。