新潟のうまい酒と肴(さかな)を求めてふら~り、ふらり。酒席で人生の多くを学んだ新潟日報社の森沢真理・特別論説編集委員が、酒や肴、酒にまつわる出会いをつづるコラムです。にゃんこの「おかみ」もご一緒に!
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大体は初夏、ごくまれに秋。こんなメールが来る。「長岡で撮影するので、夜は新潟市で飲みませんか」。発信元は、祖母が新潟県出身という歌人で「バラ写真家」の肩書もある大谷雅彦さん(64)=滋賀県在住=だ。高校生の時、当時、史上最年少で角川短歌賞を受けた。長岡とは「香りのばら園」で知られる国営越後丘陵公園のこと。年に1度か2度の「酒とバラの一夜」が始まった(大谷さんが撮影したバラの写真と、新作短歌もお楽しみください)。
10月末。新潟市中央区のホテルロビーで、待ち合わせた。そり上げた頭、笑うと三日月のように細くなる目。年齢不詳の雰囲気はいつもと変わらない。
「大谷さん。お坊さんみたいって、言われません?」「はあ、そんな指摘を受けたこともありますな」
早速、古町の居酒屋へ。刺し盛りや栃尾の油揚げなどを注文する。生ビールで乾杯し、地酒に移る。大谷さんは南魚沼市の「鶴齢」が好きだという。

歌人で「バラ写真家」の肩書もある大谷雅彦さん=新潟市中央区で撮影
「昨年、丘陵公園にムスー・デュ・ジャポン(日本の苔=こけ)という名前のバラが植えてあるのを見つけまして」
モス(苔)ローズといわれるバラで、がくや茎に苔のような緑の突起がびっしり付いている。どの品種のバラがどこにあるか。太陽の光が何時に、どの方向から差すか。バラ園の精緻(せいち)な見取り図が頭に入っているらしい。

品種名・ムスー・デュ・ジャポン(作出国不明)。花は赤紫色。どうしてこのような名前になったのか、詳細は不明。モスローズはヨーロッパで流行したことがある=長岡市の国営越後丘陵公園、大谷雅彦さん撮影
カメラ歴は20年余り。長岡だけでなく、岐阜や千葉など全国の主だったバラ園を訪ね、8千種類ほど撮影した。桜やスイレンなども撮るそうだ。
長岡の特徴は、白いバラがきれいなこと。「やや寒冷地のため花が傷みにくく、手入れもいい」という。日本海側のバラ園は珍しく、丘陵公園は「バラ園では全国で5本の指に入ると思います」

品種名・アイスバーグ(作出国ドイツ)。花は白。育てやすく、非常に花付きが良い品種で人気がある=長岡市の越後丘陵公園、大谷雅彦さん撮影
大谷さんは長く経理畑で働き、定年を迎えた。いまは短歌と写真が生活の中心だ。「奥さんは現役で働いていますので。僕、普段は主夫、やってます」と、ニコニコしている。
新潟とのゆかりは深く、祖母は中条町(現・胎内市)出身。「祖母は大阪に働きに出て、丹波出身の祖父と出会ったそうです」。祖母の姉はハワイに嫁ぎ、10人以上の子どもを産んだ。孫はコーヒー農園を経営している。米国のオバマ元大統領が愛したコナ・コーヒーだ。

バラ色とオレンジ色に輝く夕日と信濃川。晩秋らしい光景だ。お酒も温かいものが欲しくなる=新潟市中央区
働き者で知られる新潟の女性たちは、遠く故郷から離れた地に根を下ろし、花を咲かせた。そんな物語を聞いていると、何だか勇気が湧いてくる。
次の機会は来年かな。健康に気をつけて、また酒とバラの夜を迎えましょう。
◎大谷雅彦(おおたに・まさひこ) 兵庫県生まれ。1976年、第22回角川短歌賞受賞。結社「短歌人」所属。現代歌人協会会員。歌集『白き路』『一期一会』

品種名・ネージュ・パルファン(作出国フランス)。ややクリーム色に近い白。白色のバラは傷みが目立ちやすいが、長岡市の越後丘陵公園ではいつもきれいに咲く=大谷雅彦さん撮影
◆薔薇をモチーフに新作の短歌20首
大谷雅彦さんが越後丘陵公園の薔薇(ばら)をモチーフに、新作の短歌20首を寄せてくれた。三十一文字の静謐(せいひつ)な世界をどうぞ。
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「秋果てて」 大谷雅彦
朝霧の濃き幾日か俯きて紅(あか)き薔薇(さうび)のしづかにありぬ
花あはくおのれの影を揺らしつつ丘につらなる 登りてゆかな
わが影をひとつ曵きつつ登りゆく薔薇咲ける丘秋のをはりに
花の香の溜まりて暗き朝の径(みち)輪郭のなき霧が降りくる
薔薇苑の朝冷えたれば降りたまる花の香徐徐に傾斜(なだり)をうごく
薔薇の影それぞれあはき輪郭をたもちつつ揺る風あをければ
くれなゐの花それぞれの影揺れてすこしにぎはふ薔薇苑にゐる
忘れきし言葉のいくつ昼ふけの薔薇苑にわが影も遺しつ
完璧な薔薇咲きゐたる朝の苑 高弁剣芯といふあやふき象(かたち)
人待ちて人来ぬ午後を揺れゐたる黄の薔薇寂し秋のをはりに
ふいに名を呼ばれしごとく首揺れてまたもどりけり夕暮れの薔薇
たそがるる人間の影薔薇の影あやふくなりぬ径の隈にて
深深と霧のとざせる径あれば人の象(かたち)のをりをり過ぐる
山原に薔薇の花影そよぎつつ秋果ててわが影もまぎれぬ
薔薇の名は「ムスー・デュ・ジャポン」日本の苔をまとへる紅きむらさき
日本の苔といふ名の薔薇ありぬ秋果てて濃き残照のなか
「ラ・フランス」はみな俯きて影をなす秋果ててなほあかるき丘に
薔薇苑の夕べ寂しく花揺れて揺れやまぬそのあはき影踏む
寂しさのきはまるところ薔薇苑に径は岐(わか)れてまた逢はむとす
岐れたる径がふたたび逢ふまでの寂しき赭(あか)のそよぐ傾斜(なだり)を
◆「ほんやらメロー」(新潟銘醸)をコーヒー焼酎に
焼き魚、煮物とも相性よしの器用者
「バラとコーヒー」をモチーフにした酒肴(しゅこう)に挑戦してみよう。お酒は以前から気になっていた「コーヒー焼酎」を。インターネットで検索し、焼酎の瓶に豆を入れて漬ける一番シンプルな方法を試すことにした。
焼酎100ミリリットルに対し、コーヒー豆は10グラム(大さじ2)の割合で漬ける。豆は、大谷さんからもらって冷凍していたものがある。自宅で焙煎(ばいせん)したという。

コーヒー豆を投入した「ほんやらメロー」。焼酎が早く黒くなるように、ダークな漫画を置いた本棚で保管してみた
焼酎は行きつけの酒店に相談して、小千谷市の新潟銘醸の「ほんやらメロー 本格米焼酎」(720ミリリットル、1139円)を選んだ。「酒米を使って熟成させ、樫(かし)だるの香りを付けた。コメの風味がしっかりとしています」。常務取締役、和田寿夫さん(57)は言う。肴は、焼き鳥を合わせているそうだ。
漬けて1週間ほどたったら、豆が底に沈んだ。ペーパーフィルターでこして口に含むと、ほのかにコーヒーの香りがする。ガムシロップを入れた方が飲みやすい。肴はバラの形を模した生ハム(ネットで作り方を検索)と、コーヒーに合いそうなチーズとクルミを。意外だったのは、夕食で一緒に食べた焼き魚や煮物とも相性がいいこと。さすがはコメの焼酎だ。

コーヒー豆を入れて1週間。琥珀(こはく)色になった焼酎
◆[ほろよいレシピ]生ハムを一手間くるり バラ揺れる
材料(1〜2人前) 生ハム3枚(厚ければ2枚)と切れ端少し、溶けるチーズひとつかみ、クルミ少々
(1)テフロン加工のフライパンにチーズとクルミを入れ、弱火で焼く(レンジでチンでも)。キツネ色になったら冷ます。油が結構出るので、拭き取る。
(2)端が重なるようにして、ハムを横に並べる。下から半分に折る。右から緩く巻き、つぼみ状にする。
(3)切れ端の上につぼみを置き、つまようじでハムを外側にめくる。葉っぱ(ハーブでも大葉でも)を飾ると、バラらしく見える。

生ハムのバラ、焼きチーズとクルミ。塩分強めなので果物を添えるといい
◆[お買い物と見学info]
◎新潟銘醸 小千谷市東栄1丁目8-39、電話0258(83)2025
◎国営越後丘陵公園 長岡市宮本東方町字三ツ又1950番1、電話は越後公園管理センター、0258(47)8001 年内は原則月、火が休園だが、詳細はホームページで確認を。バラの時季は終わったが、冬もさまざまなイベントがある
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「還暦記者の新潟ほろ酔いコラム」(略称・新潟かんほろ)は原則第2、第4金曜にアップ。次回は「図書館で飲む酒」の予定です。
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