外国人とその家族に「定住」の選択肢を示した。地域に根差し、安定した生活を送れるよう環境を整えるべきだ。それには国のきめ細かな支援が欠かせない。
熟練外国人労働者として永住や家族帯同が認められる在留資格「特定技能2号」について、政府は受け入れ対象を大幅に拡大する方針を自民党側に示した。
与党で検討し、了承されれば政府は6月にも閣議決定する。
現在の対象は建設、造船・舶用工業の2分野だけだが、農業や宿泊、飲食料品製造業、自動車整備など9分野を追加する。
人手不足が進む中、労働力確保に向け経済界が求めていた。外国人材の長期・安定的な雇用に道筋を付けるものとして期待される。
特定技能制度は2019年に創設された。一定の専門性や技術を要件として12分野を対象に最長5年働ける1号と、より熟練技能を要する2号がある。
1、2号とも転職が認められている。2号で5年以上働き、在留が継続10年以上となるなど条件を満たせば永住もできる。
2月末時点で1号は14万6千人いるが、2号は10人に過ぎない。1号を受け入れた各産業分野からは、2号として雇用を継続したいとの要望が出ていた。
12年連続で総人口が減少する日本で、今の社会システムを維持するには、外国人労働者の受け入れ拡大は避けて通れない。
問題なのは、現行制度が低賃金・重労働の温床となり、暴力やパワハラなどの人権侵害が多発している実態があることだ。
とりわけ、特定技能は技能実習制度と比べて事業者を監督する仕組みが整わず、権利を保護する十分な体制もとれていない。
許認可を取り消すような技能実習と同じ仕組みが欠かせない。事業者側の人権意識も高めたい。
一方、2号の対象分野が拡大すると人材獲得競争が激化する懸念がある。大都市や大規模事業者に人材が集中すれば、地方の人手不足が深刻になる。対応策を検討しておくべきだ。
文化の違いなどで地域住民との摩擦が生じることも想定される。日本語が十分に話せない外国人には、生活に困らないような語学教育の支援が必要だろう。
政府の有識者会議は先般、技能実習制度を廃止し、新制度を創設する方針を示している。
2号の対象拡大と併せ、政府は外国人を受け入れる環境整備に速やかに取り組んでほしい。
政府はこれまで受け入れ制度を「移民政策ではない」と強調してきた。新たな方針は現実に即した政策転換にも映る。
円安などで日本の魅力は薄れつつある。働き先として「選ばれる国」になるため、政府は国内外に政策の意義を丁寧に説明し、理解を得るよう努めてもらいたい。