子育てに王道はない。手探りを繰り返す毎日が、やがてわが家の子育てになっていく。いろいろなパパに話を聞き、それぞれが歩んできた「パパの細道」をのぞかせてもらう全5回の対談企画。第5回(最終回)のゲストは、ファザーリング・ジャパンにいがたの吉田健太さんと大堀正幸さん。まっすぐ突き進んだ一本道か、ワイルドに切り開かれた獣道か。今回はどんな細道が待っているだろうか。

横田孝優
コピーライター。9歳(男)・6歳(男)・6歳(女)の3児のパパ。企業や商品のブランディングやライティングなどを手がける他、新潟日報社発行のフリーペーパーasshにて「子に溺れる~長男+双子男女のエブリデイ~」を連載中。https://ztdn.net/

吉田健太さん
2022年6月、子育て中のパパを支援する団体「ファザーリング・ジャパンにいがた」代表に就任。長男14歳と次男12歳のパパで、人材サービス企業に勤務。最近は子ども達の成長が著しく、サッカーやスノーボードなど子どもに追い抜かれまい、と一緒に切磋琢磨(せっさたくま)する日々。

大堀正幸さん
ファザーリング・ジャパンにいがた前代表であり、現顧問。長男12歳と次男10歳のパパ。建築会社、障がい者グループホームなど、五つの企業や団体の代表を務める。「家族はチーム」をモットーに、パパたちに子育ての楽しさを伝えている。
子育ては自分ごと
横田 男性の積極的な育児参画がもっと必要だと思うのですが、そのために男性はどうすべきなのでしょうか?
吉田 やっぱり「自分ごと」と捉えることですよね。父親になる前段階から、「自分のことなんだ」って意識するのが大切だと思います。「父親になる」ではなく「父親をする」。
横田 とはいえ「何からやっていいか分からない」という声も聞きます。
吉田 「あるある」なのが、男性も家事や育児をやってみるんだけど、ママにダメ出しされてやらなくなっちゃうこと。洗い物などでもよくありますよね。そうならないためには、「ありがとう」の一言を積極的に言いあうことや家事ギャップの解消のために「ゴールイメージ(終了時点)の共有」を心がけるとよいと思います。私は抜けがあると、妻から「ゴールイメージの共有!」とダメ出しされます(苦笑)
横田 それに加えて事前準備が大事ですよね。子どもが生まれた後でママが洗い物から教えるのは「ちょっと時間ないよ」って感じですけど、もっと早い段階で洗い物の練習を始めていれば、ママも教えるための精神的余裕があるかもしれない。

10年前の次男くん(左)と長男くん(右)。当時、2歳と4歳。この頃は奥さんがワンオペ育児することがほとんど
ママとパパの協力体制
大堀 私が意識したのは「背中を見せること」。子どもたちが生きていく時代は、育休の取得率ももっと増えていくし、男性が家事育児をするのは当たり前じゃないといけない。私も30歳くらいまでは、結婚したとしても女性に家事育児をやってもらって、男性は仕事だけしてればいいと思っていました。ファザーリング・ジャパンの活動なんて興味もなかったんです。でもどこかで、子どもたちが自分みたいな価値観を持ったまま大人になったら苦労すると気付いたんです。
横田 大きな気付きでしたね。そこから変わったことはありましたか?
大堀 無理やりにでもキッチンに立って料理をしたり、他の家事をする姿を子どもに見せたりしていました。得意かどうかは別として、男性もそういうことをやらなきゃいけないと伝えることを意識していました。だからまずは「家事育児をやっている男性のふりをする」ところから始めればいいんじゃないかと思います。それには、ママの協力も必要なんですよね。「下手だからやらなくていい」とパパが言われていると、子どもたちもそれを見て「ママに怒られるからやらなくていいんだ」と思っちゃうでしょ。そこは夫婦で話し合って、下手でも「キッチンに立たせて」とか「洗濯をさせて」とか、協力体制を築いていけばいいんじゃないかな。
横田 なるほど。確かに。
大堀 子どもたちって「見抜く力」がありますからね。楽しんでやっているか、苦しんでやっているかは分かっちゃう。親も楽しんで生きていないと、「大人になりたくないな」って子どもたちも思いますよ。
社員が突然休むリスク
横田 育休推進を阻む要因とその解決策について、ヒントをいただけますか?
吉田 まだまだ会社の風土や経営者の考え方に左右される部分が大きいと思います。でも、突然誰かが休んでも仕事が回る仕組みは必要ですよね。介護や病気で仕事を休まなければならなくなることは誰しもあります。その点、育休は準備期間がありますから。
横田 リスクマネジメントとしても、緊急事態に対応できるようにしておく必要はありますよね。事故にあって突然休まないといけないとか、可能性としては常にあるわけですからね。
吉田 そうですね。
横田 大堀さんはいかがでしょうか?
大堀 新型ウイルスの流行で、テレワークが定着したじゃないですか。社会変化を促す劇薬でしたよね。育休も取得する社員が増えると、企業はどんな体制を作っておくべきかを考え始めるはずです。取りたい人はどんどん取ってもらって、経営者は構造改革に取り組んで、ワーク・ライフ・バランスを推進することが大事なのかなと思いますけどね。
一回立ち止まって考えてみる
横田 最後に、世の中のパパたちにメッセージをいただけますか。
吉田 子育てって、思い通りにならないこともたくさんあると思います。それをマイナスに受け止めるんじゃなくて、楽しんでほしいですね。きっと人として成長できる機会になります。
横田 確かに、思い通りにならない人間と向き合う修行としては、こんなに鍛えられることはないですよね(笑)。
大堀 混沌(こんとん)とした時代になってきて、副業もやらなきゃいけなかったり、ずっと同じ会社で勤めることが普通じゃなくなったりしていますよね。固定概念にとらわれている男性も多いと思うので、一回立ち止まって「俺は何のために生きているんだろうか」とか「笑顔で仕事ができているのかな」とか、考えてみてもいいと思います。嫌な会社だったら思い切って辞めてみるとか、転職や起業もしやすい環境になっていると思うんですよね。それで収入は減ってしまうかもしれないけど、家族一丸となって乗り越えていけるような男になってほしいなってことですかね(笑)。
横田 子育てじゃなくて、人生のアドバイスになりましたね(笑)。
大堀 でも、子育ては期間限定。子どもに手がかかるのは10年ほどです。もっと長い目で自分の人生を最後まで楽しんでほしいですね。苦しんでいる大人が多いから、大人になりたくない子どもが増えていると思うんでね。そこは歯を食いしばってでも、笑顔で楽しんでいる姿を見せてほしいですね。

長男くんと遊ぶ大堀さん。自分の人生において、子どもと一緒に過ごす時間は意外に少ない。手のかかる時間をいかに楽しめるかが子育ての鍵
(終わり)