かつて魚野川の鮭漁に使われていた漁具を見つめる戸門秀雄さん=2024年11月、埼玉県入間市の「郷土料理ともん」
かつて魚野川の鮭漁に使われていた漁具を見つめる戸門秀雄さん=2024年11月、埼玉県入間市の「郷土料理ともん」

 北海道や太平洋側を含めて記録的な不漁といわれた2024年秋の鮭(シロザケ)。大型企画「碧(あお)のシグナル」の第2シリーズ「旅する魚」では信濃川水系の鮭を通し、流域の自然や文化を見つめます。(9回続きの9)

 埼玉県南西部の西武池袋線入間市駅から車で5分ほどの住宅街に、「郷土料理ともん」が店を構える。

 2024年秋、店を訪ねると、コウタケやマスタケといった珍しいキノコの天ぷら、アユの姿焼き、山菜が次々と出てきた。新潟県を中心に、奥多摩や群馬県の山、川で取れた自然の恵みばかり。魚沼地方を流れる魚野川の鮭を使うこともある。

 店主の戸門秀雄さん(72)は50年以上にわたって魚野川に通い、川の漁師らと交流してきた。「次の世代まで資源が残るように『余して取る』。川の漁師たちと触れ合う中で学んだ哲学です」。料理にも、恵みをお裾分けしていただくという感謝を込める。

 子どもの頃から入間市の自宅裏の川で釣りに親しみ、全国へと渓流釣りにも出かけた。伝統漁法や食文化が消えゆくのに出合い、記録する中、2021年には魚野川をテーマにした著書「川漁」を出し、日本水大賞審査部会特別賞も受けた。

 店内には、かぎや魚籠が並ぶ。「昔の川の豊かさや、漁師の川や魚への思いが詰まっている」と漁具を手にしみじみ語る。魚沼では鮭やイワナを取る人が減った。漁法が変わったり、廃れたりする中で譲り受けたものも多い。人と自然の関わりが薄れ、川も「単一化」していると感じる。

かつて魚野川の鮭漁に使われていた漁具を見つめる戸門秀雄さん=2024年11月、埼玉県入間市の「郷土料理ともん」

 鮭の文化を育んだ信濃川は、山梨、埼玉、長野県の境にある甲武信ケ岳を源流とし、新潟市の河口まで367キロの長さがある大河だ。最終的に本流に流れ込む支流は880ある。

 その一つで、新潟県三条市を流れる五十嵐川は11月に入ると、県外ナンバーの車が並ぶ。背丈を超える長いさおを...

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