飯舘村と隣の浪江町の境界で放射線量を測定する伊藤延由さん=福島県
飯舘村と隣の浪江町の境界で放射線量を測定する伊藤延由さん=福島県

 2011年3月11日に発生した東京電力福島第1原発事故2011年3月11日に発生した東日本大震災の地震と津波で、東京電力福島第1原発(福島県大熊町、双葉町)の6基のうち1~5号機で全交流電源が喪失し、1~3号機で炉心溶融(メルトダウン)が起きた。1、3、4号機は水素爆発し、大量の放射性物質が放出された。。放出された放射性物質は、福島第1原発から30キロ以上離れた福島県飯舘村にも降り注いだ。村に住む伊藤延由(のぶよし)さん(81)=新潟市東区出身=は、自身が持つ放射線測定器で山林や山菜、キノコ類などの線量を測り、自身の交流サイト(SNS)で公開している。「村などが公表する放射線量の情報は一部で、実態を表していない。だから自分で調べる」

 伊藤さんを突き動かすのは、原発事故を起こし日常を奪った東電への怒りと、国や村などへの不信感だ。手つかずの自然では、人が住む地域や道路など除染が終わった場所と比べて、数十倍以上の放射線量を示すこともある。「放射性物質の半減期はそれぞれ異なる。その時に調べて残さないと、数値が変わり、後から国や東電のいいようにされてしまう」

 阿武隈山系の高原に位置する飯舘村は、豊かな自然に抱かれた中で、住民がその恩恵を分かち合って暮らしてきた。

 伊藤さんは、以前に勤めていた東京のIT企業が設けた農業研修所の管理人として、2009年11月に移住。稲作や畑作にも挑戦し、収穫した農産物を販売したところ、大好評だった。「それまでの人生より、飯舘での1年の方が楽しかった」。村の住民の親切な人柄にも魅力を感じていたところに、原発事故が襲った。...

残り899文字(全文:1455文字)