東京電力福島第1原発事故で柏崎市に避難していた大熊町の井戸川洋一さん=3月6日、福島県会津若松市
東京電力福島第1原発事故で柏崎市に避難していた大熊町の井戸川洋一さん=3月6日、福島県会津若松市

 あの日を境に、故郷を奪われた。

 福島第1原発事故で福島県大熊町から新潟県柏崎市に一時避難した井戸川洋一さん(80)は今、原発から90キロほど離れた会津若松市で暮らす。「大熊に戻りたい気持ちはあるが、帰ると決めるのは難しい」と漏らす。

 2011年3月11日の地震当時、大熊町中心部にある大野2区の区長を務めていた。発災直後、地区内を見て回ったが、目立った被害はなく、自身の家の中も棚の上の物が散乱した程度だった。しかし、翌12日朝、町役場に行くとテレビの前に人だかりができていた。福島第1原発のニュースが流れており、「これはやばい」とおののいた。

 町全域に避難指示が出され、家族と一緒にバスに乗って町...

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